柏秦透心の「王様の耳はロバの耳」

カテゴリ:小説

 見上げた赤い鉄の塔は、高くそびえ立っていた。
 都会を過ぎる風が二人の髪を悠々とはためかす。
「行くか」
 冷たい視線を翻し、足音は遠ざかっていった。

「おっかしいなあ」
「どうした、翡海」
「匂い。しなくなっちゃった……」
「なに!?」
 坂の下から見上げてさらに高く映る首都のシンボルカラーは、季節の熱気に起きた蜃気楼でその足下を揺らめかせている。
「いなくなった?」
「分かんない!」
 翡海は頭を押さえた。
「爽透、お前なにか感じるか?」
「なにも。斎太は?」
「同じく」
「えー!!!」
 お手上げとため息をつく二人の後ろで、翡海は悲鳴を上げていた。
「せっかく匂い捕まえたのにぃ!」
「とりあえずだな……」
「この辺りを探そう。ボクはこっちに行くから、斎太はそっちを頼んだ」
「了解。翡海、お前あっちな」
「分かったわよー。もう!」
 走り出そうと三人が背を向けた時だった。その足を止める。
 黒い影が周りを取り囲むビル群のあちらこちらに見えた。
 斎太は頭を掻く。
「いいかげんにしろよ」
「翡海、先に行ってていいよ」
「ヤダ。二人においしいところなんてあげないもん」
「もんはやめろって」
 翡海のその細く長い手を正面に突き出した。
 それに合わせるように爽透はその後ろに下がった。
「斎太、下がった方がいいかも」
 最前線で今にも拳を握って走り出しそうにしていた斎太は、やれやれとその身を引いた。
 翡海の瞳が、エメラルドに変わる。
 
 
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そーすけも活躍させたい。さいたも活躍させたい。でも、ひみちゃんの見せ場を早く!(笑)

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 (グチなのでスルーOK)

 風に誘われる匂いは、けしていいものばかりではない。
「んーっん」
 伸ばした腕が一文字に落ちる。
 こうして鼻を効かせたところで、手掛かりの匂いを嗅ぎ付けられるわけではなかったが、それでも翡海はくんくんと鼻を鳴らしていた。
「しないっ」
「なにが?」
「匂いが」
「お、前……」
 重量級の頭がかくっと垂れ下がる。
「だってこれだけ歩いたらヒミの嗅覚に引っ掛かるものがあってもいいじゃないの。なのになんの匂いもしないんだもの」
「確かに翡海のレーダーは効くよね」
「でっしょそーすけ! だいたい条件は一緒のはずよ。斎太だって上野で目覚めた。そーすけだって世田谷、私は新宿で」
「そしてあの二人も東京に……。ある意味うんざりだね」
 爽透は、その端正な顔に苦笑を浮かべた。
「あーぁうんざりだ。俺たちがここにいるのはなぜだ?」
「斎太それ自分に言ってる?」
「当たり前だ」
 言って斎太は、ジャケットに手を突っ込んだまま無言で前を歩いていく。
 今日は山手線一日巡りを決め込んで、品川から北回りの電車に飛び乗る。当てのないどころか正確な目的地すらないが、大雑把でも広い探索が可能となる。
 翡海は棒型チョコプレッツェルを咥えて窓にへばり付いていた。
「平日のこの時間て、空いてるよね」
「人間なら、こんな時分に何やってんだって感じだけどな」
 乗っている人間はまばらで、子連れの専業主婦が買い物に出て来たとか、ちょっと何駅か先の病院までとかいうお年寄りや、外回り中のサラリーマンが汗を拭いている程度だ。
 まあ時間帯にわずかな差はあれ、都内一周の電車はこの時間、都会の中でものんびりとした走りに身をまかせられる。
「おい翡海! 何か感じたか?」
「ううん、何も」
「翡海のよーかいレーダーにも引っ掛かんないか。ははっ」
 暇を持て余してわざとらしいジョークを言っては、斎太は豪快な笑いをみせる。
 だが一人を挟んだ向こう側で、くすりと笑う声もあった。
「斎太こそ、レーダーが付いてるんじゃない? もっとも、斎太のはレーダーというより発信装置、とかね」
「あるある。特にケバいおばさん限定」
「あるか」
 ひとしきり笑っていると、誰もが見れば分かる首都のシンボル、東京タワーがビルディングの群像の合間に見えて来た。
「いた!」
「はぁ!? どこだ」
「東京タワー!」
「降りよう!」
 最寄り駅でドアが開く。
 誰ともなく三人とも降り立ったばかりのホームを駆け出した。

 道行く人々は思った。「熊でも鳴いているのか」と。
 都会育ちの彼らは熊の鳴き声なぞ当然知らないのだが、そう思ってしまう。
 それでも斎太は気にも止めなかった。理由は二つある。自分で自覚していて、なおかつ翡海にいつも言われているのだ。
「うん、熊みたいな欠伸よね」
 斎太はひやりとまで肌がそばだつほど冷気漂う地下の大ホールに足を踏み入れていた。 明かりはないが、内から光を発する壁が目の前に聳えている。
「よう来たの。久しいな、斎太。こちらの父母は息災か」
 したくもないが、斎太は直立不動のまま頭を下げた。
「あいにくと元気だけは」
「ふむ、宜しかろう。報告するがいい」 
 慄然とする声音。どこから声を出しているのかと思うほど、遠くとも響く静かな言葉だ。
「アマテ──いや、陽の神子君。今のところ、つつがなく」
「感づかれてはおらぬか。大儀であった、下がるがよい」
 肝が冷えるとはこの事だと、いつも思う。他の二人から比べれば動じない人間だが、これだけは斎太にとって例外だった。
 壁に向かって高くなっている所の椅子に、一人の女が慇懃な態度で座っていた。見下し、主の目で見下ろす。
「どお?」
「ん。大丈夫そうだ」
「早く見つかると良いんだけど……」
 離れた場所で爽透と翡海は待っていた。
「しかしあれだな、どうやったんだか」
「あたしらと同じじゃないの?」
「まあ大きくはそういう事なんだろうけどね」
「神は神、人は人……か」
 鬱蒼と囲むビルの谷間から陽が照り付ける。
 青に変わったばかりのスクランブル交差。そのさざめく人波に三つの人影が迷い込む。
「当ては探し尽くした」
「ならまた新たな当てを探すまでだね。カードはいくらでもある」
「翡海それよりお腹空いた~」
「……またこのパターンか。おい、翡海! もとはと言えばだなっ」
「そんなこと言ったって、腹が減っては何とやらだよ。ねー、ソースケ」
「そういえば二つ先の通りに、新しいとんこつ専門店が」
「じゃあ決っまり」
「点滅だ。走れっ」
 考えるよりまずはなんでも行動、気の向くままに。
 今も昔も変わらない彼らの姿勢だった。


 地下深くに隠れし女帝はほくそ笑んでいた。
「どうじゃ月の神子よ。こちらの空気も悪くはなかろう」
 紅の口許がいやらしく吊り上がる。
「全ては我が手の中に……さあ、いつ現れてくれるかの。地の神子や」
 美しくも地を這うような声は、誰が聞くともなくその場に満ちていた。
 そしていつからかそれは嘲笑に変わっていった。

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私信:だいじょび?

今後の柏秦透心ぃずNOVELの予告ページを作る予定なんですが、同時にこっちにもそれっぽくなんてやってみたく。
あくまでどっちも「やってみたい」です。

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連載中『式師戦記 真夜伝』


緯仰の胸の中には何が秘められているのか。真夜の中に生まれ出した、“恋”とは違う感情。気を取られている間に、咲の実家、三枝神社に影が迫る。
そしてさらなる真実が……。




新連載『サナンドムーン(再仮)』

ニール家当主の父と、主家ダーウォールの子女の母の間に生まれた不義の子、ロカは従妹のビラン・ダーウォールの従者として育てられたが、彼女に対して芽生えた想いと彼女との関係に揺れ動かされる絆が、運命の車を回す糸となる。




『キッシュな旅』第2弾

深夜に町に到着したキッシュ一行。宿は取れたが開いていた食堂は一軒、しかもそこはオールナイトの酒場だったが、案の定小さなキッシュを見た下卑た奴等が絡んで来て……。


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こぉんなラインナップです(なんて

最近前の職場関連のキーワードの夢が多いっス。
なにげに今度のスポーツフェスティボに対して、いささか緊張しているらしく……。
だって!恩師と教え子がいる場ってなに私どーすればいいの!うっわマジ緊張。

「爽透」
「そーすけー」

 それは、遠くから聞こえた馴染みの呼び声だ。
「なーに寝てるのよ」
「ほっぽってくぞ?」
 ぱちりと開いた目は声の主を映した。霞みを振り払うのに瞬きをして、もそりと爽透は起き上がる。
「気持ち良かったんだよ」
 恥ずかしそうに、拗ねたように、最初に口にしたのはこの言葉だった。
 差し出された細い手を借りて、爽透《そうすけ》は陽に溶け込むよう髪を揺らして立ち上がった。
「まあお前の季節だからな」
 苦笑げに体勢を整えたところで、隣りで貸していた手を放された翡海が、向かう方向とはまったく異なる方を指差した。
「でぇ、あの人たちはどうしよっか?」
「そうだな。俺ならタタキだな」
「僕なら三枚おろしかな」
「じゃヒミはミンチ希望で」
 翡海《ひみ》の指の先には、昼間にもかかわらず黒い一団が、もぞもぞと近付きつつあった。だがそれは一刻の間をおかず散り散りとなる。
 素手で次々と人だったものの残骸のピラミッドを作り上げるは、黒光りする皮ジャケットを引っ提げる斎汰《さいた》だった。
 しかし足下には自分が片付けたわけではないものが、散乱している。ヒュンヒュンと風を切る音とともに、小さなカードが宙を走る。
「うっわ、そーすけヤメテぇ」
「三枚おろしだけど?」
 ニヤリとした口許が、翡海にさらなる不快を加える。
「なんで二人ともグロい手使うのー」
「グロいって」
「翡海……」
 かく言う翡海はミンチ希望。元の姿の想像さえ出来かねるほど、片付けたものが散乱していた。
「原形分かる方がかえってグロいじゃない! ヒミやなんだもん、グロいの!」
 頭悩ます間に、斎汰・爽透以上に翡海の細い飛線がうねりをつくる。
 その甲斐あってか、事は物の五分とかからなかった。
「こないだの仕返しでしょ? つまんない」
「仕返しするだけの度胸があったんだ。褒めてやれ」
「確かに」
「まあね。それじゃあ言ってた通り、ラーメン食べに行こ!」
 おニューのサンダルが小気味良く鳴って、ゴツいブーツと白い革靴があとを追うように歩いていった。



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 あとがき?
なぜか気晴らしに即興で書いたものがまたこんなものに……
しかも続くらしい……

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